アベノミクスが高市総裁を生み、小泉進次郎を敗北に追いやった理由【林直人】
■小泉進次郎の「挫折」:グローバリスト・エリートへの大衆の報復
小泉進次郎氏の政治的立場は、戦後日本が歩んできた市場原理主義、国際協調、そして自民党主流派という「体制(Establishment)」の継続性を象徴していた。彼は、長期にわたる巨大債務維持とQE政策という、この格差を生み出したマクロ経済的枠組みの「象徴」そのものとなった。

ダリオの理論が示すように、富の格差が極大化したLDCの最終段階では、「持たざる者」の怒りと不満は、既存のエリートやシステムに対する拒絶反応として現れる。
小泉氏の政治的挫折は、彼の個人的な資質や政策論争の失敗ではなく、QEによる構造的な不平等に苦しむ大衆が、「失敗したデレバレッジ戦略」の象徴に対する集団的な「NO」を突きつけた、まさしく報復的な投票行動の結果なのである。彼らは、過去30年間のグローバリズムの下での「相対的な凋落」という集合的な敗北感の原因を、その受益者の象徴に求めたのだ。
■高市早苗の「勝利」:ナショナリズムと権威主義的リーダーへの渇望
対照的に、高市早苗氏が掲げる「積極財政」「経済安全保障の強化」といった政策、そしてその強硬な姿勢は、ダリオがLDCの最終局面で台頭すると予言する「強いナショナリストのリーダー」像と完全に合致する。
長期にわたる経済不安とグローバル秩序における日本の相対的地位の低下は、国民の間に「自己不確実性」と「社会から不当に扱われている」という疎外感(アノミー)を蔓延させた。この心理的危機感は、個人が立ち直るための強力な「アイデンティティ」と、それを保護する「強力なリーダーシップ」を求める。
高市氏への支持は、グローバル化の波に敗れ、相対的所得の急落に苦しむ大衆が、内向きで強力な国家主導の変革、すなわち「再構築」への衝動を託した結果である。これは、既存の「体制(グローバリスト)」への怒りを、国内のアイデンティティ(国家)の強化という形で昇華させようとする、経済的不安が誘発したナショナリズムへの心理的な逃避である。
彼女の台頭は、巨大債務サイクルが経済的な失敗から政治的な「リセット」へと移行している、痛みを伴う闘争の始まりを告げている。